東京や大阪のような大都市で働くことには、たくさんの魅力がある。
人も、情報も、仕事も集まっている。
選択肢は多く、刺激もある。
僕自身、東京で育ったので、その便利さも楽しさもよく分かっている。
だから、地方勤務の方が優れていると言いたいわけではない。
ただ、社会人一年目に新潟へ配属された経験は、思っていた以上に僕に合っていた。
仕事では、若手のうちから多くの経験を積ませてもらった。
休日には、キャンプやスノーボード、サーフィンを始めた。
地元の店へ通い、日本酒やワインが好きになった。
気づけば、新潟には「また行きたい場所」ではなく、「帰りたい場所」が増えていた。
配属が決まった当時は、地方勤務を少し残念に思っていた。
でも今振り返ると、あの数年間は、僕の仕事観も人生も大きく広げてくれた時間だった。
地方勤務は、キャリアの遠回りではなかった。
僕にとっては、自分の世界を広げてくれた、大切な寄り道だった。
社会人一年目、初任地は新潟だった
社会人一年目。
初めての配属先は、新潟だった。
東京で生まれ育った僕にとって、地方で暮らした経験はほとんどなかった。
正直に言えば、少しだけ落ち込んだ。
同期の多くは東京勤務。
家族も友人も東京にいる。
「なんで新潟なんだろう。」
そんな気持ちがなかったと言えば嘘になる。
もちろん、新潟が嫌だったわけではない。
ただ、知らない土地で社会人生活を始めることが、不安だった。
それまでの僕は、地方勤務を前向きに考えたことがなかった。
でも、その不安は、新潟で暮らし始めて数か月で変わっていく。
仕事。
人。
食。
自然。
東京では経験できなかった出来事が、次々と待っていたからだ。

本社から離れていたから、仕事を任せてもらえた
地方勤務で最初に驚いたのは、仕事との距離だった。
本社から離れた拠点では、若手だからといって受け身ではいられない。
もちろん何でも自由にできるわけではない。
それでも、自分で考え、動き、責任を持つ機会は想像していたより多かった。
本社なら、同じ仕事をする人が何人もいる。
困ったらすぐ隣の先輩に相談できる。
それも大きな魅力だと思う。
一方で地方拠点は人数が少ない。
だからこそ、一人ひとりの役割が大きい。
若手にも自然と仕事が回ってくる。
失敗もした。
でも、その分だけ成長も早かったように思う。
そして、もう一つ大きかったのが、人との距離だ。
会社の社長や役員が新潟へ来る機会は意外と多かった。
そのたびに一緒に食事へ行き、お酒を飲みながら仕事の話を聞かせてもらった。
会社の未来。
営業とは何か。
お客様との向き合い方。
教科書には載っていない話を、たくさん聞かせてもらった。
東京の大きな組織だったら、きっとこんな経験はできなかったと思う。
地方勤務だから仕事が少ない。
そう思っていた。
でも実際は逆だった。
地方だったからこそ、自分の仕事が見えた。
地方だったからこそ、人との距離が近かった。
社会人一年目の僕には、その環境がぴったりだった。

知らない街が、帰りたい街になった
新潟で暮らして、一番驚いたのは食べ物だった。
米がおいしい。
それは知っていた。
でも、本当に驚いたのはその先だった。
刺身。
寿司。
茶豆。
そして日本酒。
どれも東京で食べていたものとは少し違った。
茶豆は甘くて香りが強い。
枝豆のイメージが変わった。
日本酒もそうだった。
店へ行くたびに違う銘柄を教えてもらう。
料理に合わせて飲み比べる。
気づけば、日本酒そのものが好きになっていた。
ワインも新潟で好きになった。
今では旅行へ行くと、その土地のお酒を探すようになったが、その原点は新潟にある。
そして何より良かったのは、行きつけの店ができたことだった。
店主と話す。
常連さんと笑う。
「いつもの」と言える店が少しずつ増えていく。
そんな経験は、それまでなかった。
新潟を離れた今でも、年に一度は訪れている。
観光ではない。
あの店へ帰るために行く。
今では妻も一緒に通い、すっかり常連の仲間入りをしている。
街は、人が好きになることで、特別な場所へ変わる。
新潟は、僕にとってそんな街になった。

自然が、休日の楽しみを増やしてくれた
新潟へ行かなければ、今の趣味はなかったかもしれない。
キャンプ。
スノーボード。
サーフィン。
全部、新潟で始めた。
海まで車で30分。
山までも30分。
自然が、とても近かった。
東京にいた頃は、アウトドアは少し特別なイベントだった。
でも新潟では、休日の選択肢の一つだった。
「今日は海へ行こう。」
「今週はキャンプにしよう。」
そんな会話が自然に生まれる。
少し興味があるだけでも、新しい趣味がどんどん増えていく。
そして、その趣味は今でも続いている。
キャンプの記事でも書いたように、僕の人生を変えた趣味の一つになった。
地方勤務は、仕事だけではなく、生き方まで変えてくれたのかもしれない。

地方勤務は、僕の世界を広げてくれた
地方勤務が、すべての人に合うとは思わない。
東京や大阪だからこそ経験できる仕事もある。
大きなプロジェクト。
最先端の情報。
たくさんの人との出会い。
それも間違いなく魅力だ。
だから、都市と地方に優劣はない。
ただ、もし地方配属になって少し落ち込んでいる人がいたら、一つだけ伝えたい。
まだ、その街の魅力を知らないだけかもしれない。
僕は新潟で、仕事を学んだ。
人とのつながりを知った。
おいしい食べ物と酒に出会った。
そして、一生続けたい趣味にも出会った。
あの頃は、「地方勤務になった」と思っていた。
今は、「地方勤務を経験できて良かった」と思っている。
地方勤務は、僕のキャリアの遠回りではなかった。
人生の選択肢を広げてくれた、大切な寄り道だった。
今では、妻も新潟が好きになった
新潟を離れた今でも、年に一度は妻と新潟を訪れている。
目的は観光ではない。
お気に入りのお店へ行って、大将や常連さんと話し、おいしい料理とお酒を楽しむ。
僕にとって「帰ってきた」と思える場所を、今では妻も同じように好きになってくれた。
その中でも、二人で新潟へ行くたびに探してしまう日本酒がある。
どれも新潟らしい魅力があって、お土産にもおすすめだ。
千代の光「越弌(こしいち)」
一番おすすめしたい一本。
名前を見ると、「スター・ウォーズが好きな人が付けたのかな」と思ってしまう遊び心も気に入っている。
実際は、千代の光酒造が手掛ける新しいブランドで、低アルコール設計と華やかな香りが特徴。白ワインのようなフルーティーさと軽やかな甘みがあり、日本酒をあまり飲まない人でも「飲みやすい」と感じやすい一本だ。
妻もこのお酒が大好きで、新潟へ行くと必ず探してしまう。
「日本酒ってこんなに飲みやすいんだ。」
そう思わせてくれた、思い出の一本だ。
麒麟山「伝統辛口」
僕が一番好きな辛口の日本酒。
派手さはない。
でも、飲み飽きない。
口に含むとすっと切れて、料理の味を邪魔しない。
刺身でも焼き魚でも鍋でも、何に合わせてもおいしい。
新潟を代表する「淡麗辛口」を体現したようなお酒で、「今日は何を飲もうかな」と迷ったら、結局これを選んでしまう。
あべシリーズ
僕と妻が、見つけるとつい頼んでしまうのが「あべ」だ。
正直に言えば、どの種類を飲んでもおいしい。
ただ、「全部うまい」で終わらせるには、少しもったいない日本酒でもある。
あべを造る阿部酒造は、新潟県柏崎市で1804年から続く酒蔵だ。
現在の「あべ」シリーズは、六代目の阿部裕太さんが2015年に立ち上げた。
もともと廃業も検討されていた小さな酒蔵だったが、若い蔵人たちと試行錯誤を重ねながら、今では全国の日本酒好きに知られる銘柄になっている。
酒造りで大切にしている言葉は、「発酵を楽しむ」。
昔ながらの形を守るだけではなく、造るたびに仮説を立て、味を確かめ、次の仕込みへつなげていく。
その姿勢が、あべの一本一本に表れているように思う。
あべシリーズの特徴は、米の旨味と酸味だ。
すべて加水をしない原酒で造られているため、米の味がしっかり残っている。
それでいて、重たすぎない。
フレッシュな酸味やわずかなガス感があり、果物のようなみずみずしさを感じる。
いわゆる新潟の淡麗辛口とは、少し違う。
甘いだけでもない。
香りが華やかなだけでもない。
米の旨味、甘味、酸味、苦味が重なって、飲むたびに印象が変わる。
そして、阿部酒造が掲げている考え方が面白い。
「リストランテの最初から最後まで」。
食前酒から食中酒、食後酒まで、料理の流れに合わせて飲める酒を造ろうとしている。
実際、あべには一種類の完成形があるわけではない。
すっきりと酸を楽しむもの。
米の甘味と旨味が分かりやすいもの。
夏に飲みたいドライなもの。
同じシリーズでも、酒米や仕込み、季節によって個性が大きく変わる。
たとえば、定番のシルバーは、酸味を中心に少し甘味を残した、透明感のある味わい。
ブラックは、シルバーよりも米の甘味と酸味をはっきり感じられる設計になっている。
夏に出るブルーは、ほかのあべよりもドライですっきりしていて、暑い日に料理と合わせやすい。
一本〆という新潟県産の酒米を使ったお酒では、米の味を残しながら酸を効かせ、フレッシュさや苦味、渋味まで含めて食中酒としてのバランスを取っている。
同じ「あべ」という名前でも、飲むたびに違う表情がある。
だから、店で見つけるとラベルを確認したくなる。
「今日は、どのあべだろう。」
そんな楽しみ方ができる日本酒だ。
僕たち夫婦も、すべての種類を飲み比べたわけではない。
それでも、これまで飲んだあべは、本当にどれもおいしかった。
甘味と酸味がきれいで、日本酒らしい米の旨味もある。
日本酒に慣れている人も、少し苦手意識がある人も、一緒に楽しみやすい。
新潟へ行くたびに、新しい一本を探したくなる。
あべは僕たちにとって、一本の好きな酒というより、「次は何に出会えるだろう」と楽しみにさせてくれるシリーズなのだ。
地方勤務になった当時は、「東京じゃなかった」と少しだけ落ち込んだ。
でも今振り返ると、新潟で過ごした時間があったから、仕事の考え方も、休日の過ごし方も、人生の楽しみ方も変わった。
地方勤務は、キャリアの遠回りではなかった。
僕の世界を広げてくれた、大切な寄り道だった。



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