新幹線の窓に映る自分は、少し疲れた顔をしていた。
仕事を終え、東京へ向かう帰り道。
膝の上には営業の本。
何度も読み返したページには、蛍光ペンの跡が残っている。
「もっと仕事ができるようになりたい。」
あの頃の僕は、そればかり考えていた。
営業として成果を出したい。
早く一人前になりたい。
同期には負けたくない。
休日も仕事の本を読み、移動時間も営業について考える。
仕事で成長するには、仕事を頑張るしかない。
本気でそう信じていた。
でも今なら分かる。
あの頃の僕に足りなかったのは、仕事ではなかった。
仕事の外側の世界だった。
仕事ばかり見ていた頃
学生時代は、とにかく「やったことがない」を減らしたかった。
カフェでアルバイトをし、塾講師として働き、台湾へ留学した。
帰国後はベンチャー企業で役員秘書として、新規事業やSaaS営業にも携わった。
新しい環境に飛び込むことが好きだった。
その延長で、大手食品メーカーへ入社した。
社会人になると景色は一変した。
営業には型がある。
組織にはルールがある。
信頼は一日では築けない。
覚えることばかりだった。
だから毎日必死だった。
仕事を覚える。
成果を出す。
また仕事を覚える。
いつの間にか、人生から「仕事」以外の時間が消えていた。

人は、仕事以外で育つ
そんな毎日を変えてくれたのは、
意外にも仕事ではなかった。
先輩と行った居酒屋。
休日のキャンプ。
地方勤務。
趣味。
自然。
最初は全部「息抜き」だと思っていた。
でも違った。
仕事を忘れる時間ではなく、
仕事では出会えない世界だった。
営業は、
商品を説明する仕事じゃない。
人と向き合う仕事だ。
相手の話を聞く。
違う価値観を受け入れる。
雑談を楽しむ。
失敗を笑える。
そういう力は、
仕事の外で少しずつ身についていった。
居酒屋のカウンターで。
焚き火の前で。
地方の商店街で。
自然の中で。
人として成長した分だけ、
営業も少しずつ変わっていった。

寄り道なんて、なかった
「寄り道」という言葉には、
遠回りという意味がある。
でも、人生を振り返ると、
本当の寄り道なんて一つもなかった。
あの地方勤務も。
あのキャンプも。
何気ない飲み会も。
たまたま読んだ一冊の本も。
全部つながっていた。
当時は意味なんて分からない。
ただ楽しかった。
ただ夢中だった。
でも、
その経験が、
今の自分をつくっている。
仕事だけでは、
人は育たない。
人として育つから、
仕事も育つ。
そう思うようになった。

このシリーズについて
このシリーズで書きたいのは、
仕事術ではない。
成功談でもない。
仕事を変えてくれた、
人生の寄り道だ。
地方勤務。
キャンプ。
サウナ。
本。
居酒屋。
そして、これから出会う景色。
人生には、
あとから意味が分かる時間がある。
あの日は寄り道だと思っていた。
でも今では思う。
あれは、
今の自分へ続く一本道だった。
このシリーズは、
そんな景色の記録です。



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